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実刑 桃太郎

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主文、被告人自称おじいさん(実名非公開)自称おばあさん(実名非公開)を懲役1年間の刑に処する

罪状 保護責任者遺棄罪

なお、桃太郎(仮名)については贈収賄、傷害の罪を科するが、本件発生当時は未成年であった事、保護者不在等情状酌量の余地があるとして懲役4月の執行を1年間猶予するものとする。


―――――長い戦いだったな
我々は互いに視線を交わしながら、心の中で労いの言葉をかけ合った
今日までの出来事は、永遠に我々の種族史に残る事だろう
いや、残していかなければならない、この「おかしな世界」へ終止符を打つ為に。

法廷では尚も裁判官が抑揚無く罪状を読み上げ続けているが、刑罰の詳細などどうでも良かった
彼らがどんな罰を受けるかという事よりも大切な事があった
勧善懲悪という名の武器を持たされた少年を大きな愛情で包み込み、互いの生きる権利を勝ち取った今日という日を、我々は永遠に忘れる事は無い。


物語は数十年前に遡る
太陽が季節の移り変わりを名残り惜しんでいるかのような、暑さの残る初秋の出来事

昔々のお話である。

ある日突然小さな船に乗って現れたその一団は、我々の島に降りるや否や、桃がどうの鬼が云々という訳の分からない事を喚き散らし、島中を荒らし始めた。

島国にて物々交換で共に生活を支え合いながら仲間で力を合わせつましく暮らしていた我々の穏やかな日常を一瞬にして切り裂いたあの当時の彼らは、まさに「鬼」のようだったと言える。 

島の仲間達が狼狽えるなか、島の長であった私は少年の前に立ち、ゆっくりと両腕を広げて見せた
私のその動作は、私の後ろで恐れをなしている仲間達を安心させる盾の役割を果たすものであり、また、理由を窺い知ることは出来ないが、敵意の塊のような彼らに対するメッセージでもあった

『我々に何の用だ、ここは我々の住む土地であり暴力は趣味ではない。』

私はそう言葉を発しながら
「敵意の塊」達と視線を・・・

『言いたい事があるなら対話で』
視線を合わせようと・・・

『対話で解決しようではないか。というか・・・』
視線を合わせようとした眼光鋭い塊達の瞳は、予想以上に低い場所に位置していた。

『えー失礼、君はどう見ても子どものようだが・・・』

文字通り視線を落とした先には、口を真一文字に結んだ小さな少年が一人
そして小さな動物が数匹

『えーと、手に持ってるその小動物は何だい?わんわんとおさるさんとピヨピヨかな?君は何歳かな?お名前は言えるかな?もも?ももが好きなのかな?ん?なにかな?』

何度対話を試みた事だろう

『うん、ももじゃなくてね、お名前を教えてくれるかな?おうちの人はどこかな?』

言葉を交わし合う事で平和を保ってきた我々にとって、言葉が通じているのかいないのか判別のつかない少年は、敵意を通り越してもはや絶望の塊でしかなかった。

『いや、だから桃が食べたいなら後で食べさせてあげるからね、大丈夫だからね。でもその前におうちの人が心配してると思うからおうちを教えてくれないかな?ここまでどうやって来たの?』

少年「・・・」
我々『・・・』

なぜ仲間達はこの少年に対してそんなにまで恐れをなしているのだろう
そしてこの少年はなぜ何も話さないのだろう
私の頭の中には時が経つにつれ疑問が浮かぶばかりであった。

<<続く…かもしれないし、続かないかもしれない>>